弐ふわり:旅するミシン店
2017年 08月 27日
(こんにちは、可愛いミシン台さん)
私、このお店が大好き。お店の名前もいいよね。それにとっても素敵な空気が流れているの。手作りのブックカバーのお店なんだけど、サラッとしたぬくもりを感じるんだぁ。
わかるかなぁ? 派手じゃなくて、押しも強くなくて、シンプルで……。動物のイラストも可愛くて、何よりも温かみのある生地が愛おしいの。
「なーお」
このあたりは懐かしいね、シュウさん。
昔はね、このへんは「谷中初音町」と呼ばれていたの。初音って素敵な町名だと思わない? 近くに「鶯谷」があるから、そう名付けられたんですって。春を感じる可愛い町の名前……。
私たちが住んでいた町……。
「あら、幽子さん。こんにちは。お茶でもいかが?」
(こんにちは、ななせさん。ふふふ……お言葉に甘えておじゃまします)
あっ! 可愛い、このブックカバー! 猫がお鍋を洗ってる! こっちは、犬がアイロンかけてるー!
それにブックカバーの裏地もキレイな柄……そっか、リバーシブルになるのね!
「幽子さん、それ気に入ったの? じゃあ、特別に内緒でプレゼントしちゃおうかな」
(本当? 本当? 本当に? やったー! 嬉しいよぉー! ぎゅううう〜♡)
「そんなに気に入ってもらって……でも、幽霊さんもブックカバー使うのかな?」
実はねぇ、秘密の宝物入れがあるのですよ。大切な宝物はその箱に……。
「わっ! 消えた! すごいすごい。大切にしてね、幽子さん」
(ななせさん、ありがとう)
私、ミシンも大好き。ミシンの音にもときめくわ。
昔、私も洋裁やってたからね。
昔はぜーんぶ足踏みミシンだったわ。リズムが大事なの。パタパタパタ……ってね、ふふっ。
「なーお」
(もう、シュウさんたら、どこ行くの?)
「なーお」(初音湯……)
ああ……シュウさん。あなたが愛した初音湯はもうないの。
谷中にはもう……銭湯は一軒しか残っていないの。
寂しいけれど仕方がないの。
旅じたく 鶯泣くは 初音道かな
私はまだ旅に出られないわ。
恋したままだから……。
[弐ふわり(了)]
東京都台東区谷中七の一八の七の一階
by gauze_suzuhara
| 2017-08-27 00:01
| その壱:問わず語りの章