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第二章・拾四ふわり:天王寺五重塔跡(前編)

かりんさん達に教えられて、谷中霊園に来てみたはいいが、オレは途方に暮れていた。
「谷中霊園って広すぎーーっ!!」

シュウさんとやらは、谷中霊園のどこらへんに居るのか聞いておけばよかった。
シュウさんの特徴も何も聞いていない。やっぱオレって抜けてんな……。
どんなおじいさんなのか……。谷中霊園を散歩するお年寄りが多すぎる。片っ端から「シュウさんですか?」って聞いて回ろうかな……。それにしても、当てもなく歩き回ると本当に疲れる…。

ちょっとひと休みしようと小さな広場に足を踏み入れると「五重の塔跡」という立て札が目に入った。こんな所に五重塔なんてあったっけ。いや、「跡」ってくらいだから昔あったんだろう。自分も「お散歩地図」編集やってながらココは盲点だった。谷中通って言いながらオレ全然まだまだだなぁ。

「五重塔跡」のパネルが設置されている。そこには昔建っていた五重塔の経緯が記されていた。要約するとこうだ。
『谷中の五重塔は天王寺の塔として1644年に創建。1772年に焼失されたが、1788年に再建工事開始野の後に1791年に完成。以後災害や戦争にも耐え、160年にわたり、谷中のランドマークとして親しまれてきたが1957年7月に焼失。』

「歴史ある塔だったんだなぁ。最後には昭和32年に火事で焼けたのか…」
パネルに掲示されているモノクロ写真が火事の大きさを表していた。
オレは、広場にあるベンチに腰掛けて、詳しく検索してみようとスマホを取り出した。

「谷中 五重塔」と検索するとヒットしたサイトのタイトルにオレはビックリした。
[谷中五重塔放火心中事件]
「1957年(昭和32年)7月6日早朝に東京都台東区の谷中霊園内の五重塔が、心中による放火で焼失した事件」

そうか、火事というのは放火だったんだ。それも心中なんて……。
読み進めていくと自然に手が震えてきた。胸が苦しくなってくる。
「……焼失後、焼け跡の心柱付近から男女の区別も付かないほど焼損した焼死体2体が発見された。わずかに残された遺留品の捜査で2人は都内の裁縫店に勤務していた48歳の男性と21歳の女性であることが判明した。遺体から金の指ぬきが見つかり、当時そうした指ぬきは洋裁師しか使っておらず、そこから身元がわかったという。……」

手の震えだけでなく、身体全体がガクガクと震えてきた。
洋裁をやっていた!?
昭和30年代!?
もしかしたら、もしかしたら……幽子さんの強力な手がかり……幽子さんは……この心中事件で……。心中事件の片割れ?
幽子さんは心中事件で焼死したのかもしれない!!

「違うよ」

ハッとして、オレは顔を上げた。その声の主を探したが見当たらず、しばらくキョロキョロしていると、再び下の方から声が聞こえる。
「その心中事件と菜穂、いや…幽子さんは関係ないよ。別人だ」
「ねっ、猫……猫が…しゃ、喋ったぁー!!!」

オレはベンチから転げ落ちそうになった。気が動転してあわあわしているのが自分でも分かった。
「あんた、オレを探してたんだろ?」
「へっ?」

パニックになっているオレに、下から偉そうに見上げて、その猫はふんと鼻で嗤った。
「オレがシュウさんだよ」

えええーーーっ!!!

[拾四ふわり(了)]
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天王寺五重塔跡
東京都台東区谷中7-9-6

※「谷中五重塔放火心中事件」の説明はウィキペディアより引用


by gauze_suzuhara | 2018-05-03 12:58 | その弐:いざ言問はむの章

『鈴原ガーゼ』と申します。店名・住所は本当ですがこの物語はフィクションなんです。それに私が誰かは内緒にしておいてください。


by 鈴原ガーゼ