人気ブログランキング | 話題のタグを見る

七ふわり:あおぞら美粧院

 もうすっかり暮れてきちゃったけど、この看板見える?
 素敵な美容院でしょ。「あおぞら美粧院」って名前も大好き……。
 谷中銀座の看板アーチの下、夕焼けだんだんって階段近くにあるお店。外国には行ったことがないけれど、南フランスの田舎町にありそうな雰囲気かなって勝手に思っているの…ふふふ。
 昼間に来ると爽やかな青空を思わせて可愛いお店。でも、私は暮れてきてからのお店の佇まいも好き。
 お店の中から灯りが漏れて、あったかい気持ちと寂しい気持ちと懐かしい気持ちが入り交じって涙が出そうになるの。
 それに……憧れてしまう。だってね、こんな素敵なお店で髪をキレイにしてもらえるなんて夢のようだもの。
 幽霊になってしまう前から叶わなかった夢……。

「何見てんの、幽子さん」
(あ……かりんさん。もう、お勤めの帰り?)
「うん。今日は残業なしでちょっと早めなの。幽子さん、お店の中に入れないの?」
(ううん。入れるけど、ここから見ていたいの……)
「そっか……幽子さんは昔、どこで髪を切っていたの?」
(お店じゃなくて、時々自分で切っていたわ……あの頃ね、パーマをあてるのが流行ったの。女に人はみんなクリクリにパーマあててたわ。お釜みたいのをかぶるのよ……ふふふふ)
「お釜? なんか、重そうだし熱そうだね……変なのぉ」
(今思うとすっごく変だけど、当時はあれが女の子の憧れだったのよ。私はそんなお金なかったからずっとストレートヘアだったし、自分で切ってたけれどね。時折、「野暮ったいからたまにはパーマあてたら」って言われてたわ)
「幽子さんはストレートヘアの方が似合うと思うけどなぁ」
(昔っから終(しゅう)さんもそう言ってくれてた。「おまえが頭クリクリなのは笑っちゃう」って……ふふふふ)
「うふふ……相変わらず仲いいなぁ。羨ましいわ〜」
(かりんさんは結婚しないの?)
「なんか……思い切りときっかけを外しちゃっててね……」
「にゃー!」(よぉ! かりんちゃん! 今日もお疲れ!)
「あっ、シュウさん! 久しぶりだね。そこで猫缶買うけど、食べる?」
「にゃーにゃーにゃーにゃー!」(食う食う! ありがたいぜ! やっぱ、かりんちゃんは気前がいいね〜♪)
(シュウさんは食い意地張りすぎ……ふふ)

雲見えず きっかけもなく 春の青空

 かりんさん、時には嵐を起こして……幸せになってね。
 私たちはちょっと嵐が多すぎたけれど、ね。
 ふふふ……。


[七ふわり(了)]

あおぞら美粧院
東京都荒川区西日暮里三丁目一四の一〇
七ふわり:あおぞら美粧院_c0377046_13003385.jpg

by gauze_suzuhara | 2017-09-24 13:15 | その壱:問わず語りの章

『鈴原ガーゼ』と申します。店名・住所は本当ですがこの物語はフィクションなんです。それに私が誰かは内緒にしておいてください。


by 鈴原ガーゼ